バッハのブランデンブルク協奏曲(その6)第5番ニ長調 BWV.1050

バッハのブランデンブルク協奏曲(その6) 
第5番ニ長調 BWV.1050

この曲は、第1番から第6番の全6曲のブランデンブルグ協奏曲の内、最も名高く広く親しまれており、ブランデンブルグ協奏曲の代表的な曲です。

特徴は、先に触れた第4番で登場し見事なバイオリンの技巧性が見られたのと同様に、ここでは、チェンバロの独奏カデンツァが含まれており、あたかもチェンバロ協奏曲のような曲調となっています。

楽器編成としては、弦楽器群のバイオリン、ビオラ、チェロ、ビオローネが主体とされています。
また独奏楽器では、バイオリン、チェンバロ、フルートが用いられています。

第1楽章「ニ長調 アレグロ2/2拍子」では、冒頭から独奏楽器群のバイオリン、チェンバロ、フルートと弦楽器群がテンポよく明朗快活にその旋律を奏でていきます。
またチェンバロは、その他の独奏楽器であるバイオリンとフルートを引き立てながらも、やがて自らは長い独自のカデンツァ部へ突入していきます。

第2楽章「ロ短長調 アフェットゥオーソ 4/4拍子」では、物悲しさを誘うような感傷的な旋律が、独奏楽器(バイオリン、チェンバロ、フルート)のみで演奏されというユニークな楽曲構成となっています。

第3楽章「 ニ長調アレグロ 2/4拍子」は、第2楽章とは対象的に、明るく煌びやかな旋律が印象的で、フーガを基調の構成されており終曲にふさわしい展開となります。

バッハのブランデンブルク協奏曲(その5)第4番ト長調

ブランデンブルク協奏曲(その5) 
第4番ト長調BWV.1049

この曲の特徴は、独奏バイオリンが第1から第3楽章まで至る個所で技巧的な旋律を奏で聴かせどころがあるので、あたかもバイオリン協奏曲のような構成にすら思えるところにあるかと思われます。

楽器編成としては、弦楽器群のバイオリン2台、ビオラ1台、チェロ1台、ビオローネ1台、ハープシコードで演奏されます。
また独奏楽器としては、バイオリン、リコーダ2台が使用されています。

第1楽章「ト長調アレグロ3/8拍子」は、1度聴くとどこか暖かみと馴染み深さを感じさせられる曲調で、独奏バイオリンとリコーダ2台が明朗でゆったりとした旋律を展開していきます。

第2楽章「ホ短調アンダンテ3/4拍子」は、全合奏で独奏のバイオリンとリコーダ2台が同じ旋律を強弱を付けて交代に演奏しながら絶妙な喧騒と静寂の効用効果が引き出されており、バッハの奥の深い音の世界が繰り広げられています。

第3楽章「ト長調プレスト2/2拍子」は、冒頭からビオラによる主題が奏でられると、バイオリン群へと引き継がれていき、通奏低音も加わり対位法が主体となった形式(フーガ)となっています。

尚、このフーガは、カノンと同様に、同じ旋律意図的に複数の声部に順次含めていくという特徴がある形式です。
この部分は、主題提示部、または単に提示部、主部と呼ばれたりします。

また各パートでは、バイオリンとリコーダの独奏楽器群の技巧的なトゥッティが、合奏楽器群と織りなす旋律の流れが聴きどころでもあり、曲の締めくくりに相応しい構成であると言えるかと思われます。

バッハのブランデンブルク協奏曲(その4)第3番ト長調

バッハのブランデンブルク協奏曲(その4)
第3番ト長調 BWV.1048

ブランデンブルク協奏曲の最大の特徴は、これまで紹介してきた1番、2番とは異なり、独奏楽器群と合奏部との区別が無いところにあります。

楽器編成としては、弦楽器群のバイオリン3台、ビオラ3台、チェロ3台、ハープシコードらにより演奏され、管楽器の登場が無いというユニークな構成となっています。
個人的には、6曲中では比較的親しまれ易い旋律の曲ではないかと思います。

第1楽章は「ト長調2/2拍子」で、雄大で堂々したリズミカルな旋律がユニゾンでバイオリン群により奏でられ、その他の弦楽器がこの主題を追うように旋律を従順に引き継いでいく形式で展開されていきます。

第2楽章は「ホ短調アダージョ4/4拍子」で、即興演奏を意識した形式で2和音のみが1小節だけで構成されており、これもこの曲の特徴の1つであるとも言えます。

第3楽章は「ト長調アレグロの12/8拍子」、早いテンポの主題がバイオリンを皮きりに、ビオラ、チェロへと低音弦楽器に引き継がれていき、第1、2楽章とは対象的に駆け足でこれらが繰り返されいささか、かなり早い演奏で展開されていく面持ちをいだかされる印象があります。

バッハのブランデンブルク協奏曲(その3)第2番ヘ長調

ブランデンブルク協奏曲(その3)
第2番ヘ長調 BWV.1047

楽器編成は、独奏楽器群にトランペット、フルート(リコーダ)、オーボエ、バイオリンが、その他弦楽器群(バイオリン2台、ビオローネ)、ハープシコード、以上により演奏されます。

第1楽章は「ヘ長調2/2拍子」で、合奏の主題と独奏バイオリンの主題双方が、交代に演奏されいかにもバッハらしい旋律で次々と転長をみせながら展開されていきます。

これに続いて、独奏の主題がオーボエ、フルート(リコーダ)、トランペットへと引き継がれていき、何とも各々の楽器の特徴があらわに表現された旋律となっており、中でもトランペット独奏の高い技巧性に、インパクトがあり、聴きどころになるのではないかと思われます。

第2楽章は「アンダンテ二短調の3/4拍子」、ハープシコードの伴奏に合わせ、バイオリン、オーボエ、フルートの3重奏がゆっくりとしたペースで、どこか物哀しいしんみりとした情感を漂わせながら、この曲の中ほどをしっかりと色濃く飾りぬいていくのです。

第3楽章は「アレグロ・アッサイのヘ長調2/4拍子」で、4種類(バイオリン、オーボエ、フルート、トランペット)の独奏楽器が、最後まで活躍し各々の技巧性を披露しフーガ風に展開されていきます。

ここでもやはりトランペットの独創性がひときわ、目立っており曲の華やかさを増していると言えます。

バッハのブランデンブルク協奏曲(その2)第1番ヘ長調

バッハのブランデンブルク協奏曲(その2)
第1番ヘ長調 BWV.1046

この曲は、ケーテンでの音楽活動かそれ以前に冠婚儀式などの祝祭行事の催しの為に、作曲されたものが原曲であると言われております。

また、シンフォニアヘ長調BWV.1071と似通った点が多く見受けられる事から、これが原曲ではないかとも言われております。

楽器編成は、独奏楽器群にホルンが2台、ファゴットが1台、バイオリン1台、オーボエ3台、ビオリーノ・ピッコロ1台、この他には弦楽器群(バイオリン2台、ビオラ、チェロ)、ハープシコード、以上により演奏され、6曲の中では最大の編成規模となっております。

尚、ビオリーノ・ピッコロは、バイオリンよりも3度程高く調弦された弦楽器で現在での使用は希となっています。

曲の構成は、6曲中の中でも唯一4楽章の構成となっており、第1楽章には速度指定がないユニークさがありますが一般的にはアレグロの解釈にて、「ヘ長調の2/2拍子」で、ホルンとオーボエが、弦楽器群と共に奏でる悠々と流れるような旋律が特徴です。

第2楽章が「アダージョのニ短調4/3拍子」で、独奏バイオリンとオーボエが主体になり、情緒感が漂い寂寥すらただよう旋律が印象的です。第3楽章が「アレグロのヘ長調8/6拍子」で、あたかもバイオリン協奏曲であるかのように独奏バイオリンが中心になってこの曲を引き立てていきます。

第4楽章がメヌエットで次のような形式です。(第1トリオ、メヌエット、ポロネーズ、第2トリオ、メヌエット)で、メヌエット部が全楽器にて、トリオ部は管楽器、ポロネーズ部は弦楽器のみで演奏されるというユニークなものとなっています。

バッハのブランデンブルク協奏曲(その1)

バッハのブランデンブルク協奏曲(その1)

ケーテンでは、カンタータだけでなく、多くの器楽曲、協奏曲も手掛けており、管弦楽組曲と並んでバッハの代表的な作品であるブランデンブルク協奏曲等を作曲していた事から、充実した音楽活動を展開していたものと思われます。

このブランデンブルク協奏曲は、1721年頃に当時ブランデンブルク辺境伯であったクリスチャン=ルードビィヒ(1677-1734年)に献呈されたもので、1718年から1720年頃に全6曲が創作されたものと言われています。

この曲集の特徴は、合奏協奏曲の形式で作曲されており独奏楽器群、ハープシコード、弦楽器群などの楽器編成により主題が応答されながら曲を展開していくもので、音楽の歴史からみると古典派やロマン派の協奏曲とは相違しているところです。

そして、興味深いのは現在バッハの自筆譜が、ベルリンの国立図書館に残されているのですが、「ブランデンブルク協奏曲」という作品名ではなく、この自筆譜にはフランス語で「いくつもの楽器による協奏曲集」と記されているだけである事です。

無論、我々が知るブランデンブルク協奏曲集と同じ作品ですが、上記のような献呈された曲であることを背景に後世になって、ドイツの地名が用いられ、いかにもドイツのバロック音楽らしい作品として現在世界中の人々に深く親しまれている曲集であるのです。

バッハのカンタータ「深き悩みの淵より、われ汝に呼ばわる」

バッハのカンタータ(宗教カンタータ2-3)
「深き悩みの淵より、われ汝に呼ばわる」BWV.38、

この曲は、ルターのコラール「主よ深きふちの底より」をモチーフにした作品であり、これと同じ聖書の箇所を用いた曲として、その他にはカンタータ第131番「深き淵より、主よ、われ汝に呼ばわる」BWV.131があります。

1).第1曲: 合唱  <ソプラノ独唱、オーボエ、トロンボーン、弦楽器群、通奏低音>
2).第2曲: レティタティーボ < アルト独唱、通奏低音>
3).第3曲:アリア     <テノール独唱、オーボエ、通奏低音>
4).第4曲: レティタティーボ <ソプラノ独唱、通奏低音>
5).第5曲: 三重唱     <ソプラノ独唱、アルト独唱、バス、通奏低音>
6).第6曲: コラール    <合唱、オーケストラ、通奏低音>

バッハのカンタータ(宗教カンタータ2-2)

バッハのカンタータ(宗教カンタータ2-2)

前回に続きバッハの宗教カンタータのうちから、以下にBWV.26~BWV.38を記載します。

(宗教カンタータ2-2)
39.「飢えたる者に汝のパンを分かち与えよ」BWV.39、
40.「神の子の現れたまいしは」BWV.40、       
41.「イエスよ、いま讃賛を受けたまえ」BWV.41、
42.「この同じ安息日の夕べ」BWV.42、
43.「神は喜び叫ぶ声と共に昇り」BWV.43、
44.「人々汝らを追放せん」BWV.44
45.「人よ、汝に善きこと告げられたり」BWV.45、
46.「心して見よ、苦しみのあるやを」BWV.46、
47.「自ら高ぶる者は、いやしめらるべし」BWV.47、
48.「われ悩める人われをこの死の体より」BWV.48
49.「われは行きて汝をこがれ求む」BWV.49、
50.「いまや、われらの神の救いと力と」BWV.50

ここでは、とても全曲を紹介しきれないので、代表としてBWV.38の曲構成と演奏形体について次回以降に紹介します。

バッハのカンタータ(宗教カンタータ2-1)

バッハのカンタータ(宗教カンタータ2-1)

ワイマールでの作曲活動期より、宗教カンタータのみでなくいくつかのカンタータを既に作曲してきた経緯がありますが、1717年からケーテンのレオポルド公の下、宮廷楽団の学長の座にあったバッハは、ケーテンでの手始めにレオポルド公の誕生を祝う祝典用に「いとも尊きレーオポルト殿下よ」BWV.173 aなどの世俗カンタータを作曲し大成功をおさめています。

このようにケーテンでの活動においても精力的にカンタータや器楽曲の作曲を継続していきます。

バッハの宗教カンタータのうち、以下にBWV.26~BWV.38を記載します。

(宗教カンタータ2-1)
26.「ああいかにはかなきいかにむなしき」BWV.26、
27.「だれぞ知らんわが終りの近づけるを」BWV.27、
28.「神は頌むべくかな!いまや年は終り」BWV.28(1725)、
29.「神よ、汝にわれら感謝す」BWV.29、
30.「喜べ、救われし群よ」BWV.30、
31.「天は笑い、地は歓呼す」BWV.31、
32.「いと尊きイエスよ、わが憧れよ」BWV.32、
33.「ただ汝にのみ、主イエスキリストよ」BWV.33、
34.「おお永遠の火、おお愛の源よ」BWV.34、
35.「霊と心は驚き惑う」BWV.35、
36.「喜び勇みて羽ばたき昇れ」BWV.36、                 
37.「信じて洗礼を受くる者は」BWV.37、
38.「深き悩みの淵より、われ汝に呼ばわる」BWV.38   

バッハのカンタータ第22番「イエス十二弟子を召寄せて」(6)

バッハのカンタータ第22番「イエス十二弟子を召寄せて」BWV.22(その6)
第5曲 コラール「慈しみもてわれらを死なせ」変ロ長調、4/4拍子

5曲目は、合唱・全楽器で演奏されます。この曲は、宗教カンタータ第96番「主キリスト、神の独り子」の最後の曲である第5節を編曲したものと言われております。

特徴は、コラールがバイオリンとオーボエが演奏するリトルネッロの間節に歌われる構成となっていることです。

ここではバッハと「リトルネッロ」について少々触れておきます。
リトルネッロとは、バロック時代の協奏曲に多く見られた形式で、バッハの作品には珍しいものではありませんが、代表的な曲は後に触れる「イタリア協奏曲」などがあります。

ご承知のように「イタリア協奏曲」は鍵盤楽器曲ですが、「協奏曲」と名付けられているのは、「協奏曲」はこのリトルネッロ形式から来ているところから来ているのです。

また、リトルネッロは、ロンド形式と似かよったところがありますがその違いは次のとおりです。

ロンド形式の場合には、ロンド主題が毎回同じ主調で演奏されるのに対して、リトルネッロでは、楽曲の最初と最後以外は主調以外の調で演奏されるのです。

また協奏曲では、リトルネッロを全合奏で、リトルネッロに挟まれた部分を独奏楽器群が演奏します。

そして興味深いのは、この22番の特徴に見られる技法は、宗教カンタータ第147番「心と口と行いと生活で」BWV.147(別名:「主よ人の望みの喜びよ」)や第105番「主よ、汝の下僕の審きにかかずらいたもうなかれ」BWV.105など、1723年頃に作曲されたカンタータの最終曲に共通して適用されている傾向があるという事実ではないかと思われます。