バッハの「6つの無伴奏バイオリンソナタ」第3曲「ソナタ第2番イ短調」(その4)

バッハの「6つの無伴奏バイオリンソナタ」
第3曲「ソナタ第2番イ短調」BWV.1003(その4)

この作品集で2番目のソナタも、やはり以下に記す4楽章構成でできています。

第1楽章「クラーベ イ短調 4/4拍子」は、ゆったりとした早さで堂々とした威厳のある面持ちが感じられます。
また、他の2つのソナタである第1曲、第5曲よりも高音、低音の音域の差をうまく施すことで、この時代にあまり見られない独特の曲に仕上がっています。

第2楽章「フーガ」イ短調 2/4拍子」は、非常に長い楽節で構成されたフーガがあり、主だった休止が見られなく継続的な演奏が施されており、何か底から湧きがってくるようなエネルギッシュな旋律から躍動感を感じとることができます。

第3楽章「アンダンテ ハ長調 3/4拍子」は、1台のバイオリンで、1つの旋律とまたその他に通奏低音のパートを弾くというユニークな形式があり、移弦(ボウイング)の高度演奏技巧が必要とされます。

1つの旋律は、執拗音型(ある種の音楽パターンを続けて何度も繰り返す事)の特徴を持っているのに対して、別の旋律は叙情的な曲調になっています。

第4楽章「アレグロ イ短調 2/2拍子」は、この曲の締めに相応しい速めのテンポなのですが「マ・ノン・トロッポ」に近い演奏で表現されている様に思われます。

バッハの「6つの無伴奏バイオリンソナタ第1番」第2曲「パルティータ第1番ロ短調」(その3)

バッハの6つの無伴奏バイオリンソナタ第1番
「パルティータ第1番ロ短調」BWV.1002(その3)

「パルティータ」は、17世紀から18世紀にかけて創作された器楽曲です。
17世紀の間は、ほとんど変奏曲と同じ枠組みで考えられていましたが、時代と共に双方の明らかな相違性が唱えられるようになったのです。

まず変奏曲は、その大部分の各楽章が独立している構成で、ある程度の曲長などの規模があるのに対して、パルティータは各パートが比較的こまぎれであり、独立性もなく、またほぼ節目が無く次のパートへと繋がっていくとの点が、その主な理由と言えるところです。

またバッハの活躍したバロック音楽時代においては、共通の主題やモチーフなどによって、統一性をもって構成された「組曲」という名称を含んだ曲想として変化しましたが、バッハ自信はオルガンなどの鍵盤楽器において、古来からの用法を取り入れるようにしていたと言われています。

なお、バッハの第1番のパルティータにおいては、各楽章に変奏が付いている特徴があります。

第1楽章「アルマンダ・ロ短調4/4拍子」は、重音奏を頻繁に用いた荘厳な仕上がりです。

第2楽章「コレンテ・ロ短調4/3拍子」は、移弦(ボウイィング)が多用されている特徴があります。
これは「運弓法」ともいわれ、弦楽器にあって弓を如何に動かすかという技巧のことで、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスなどの弦楽器など、弓や弦の位置、接触させる、つまり弓を傾ける角度、弓を動かす方向、弦に加える力の強さ、弓を動かす速さによって音の強さや音色が変わることを利用する方法によるものです。

第3楽章は「サラバンドロ短調4/3拍子」、第4楽章「ジーグ・ロ短調2/2拍子」は、第1楽章と同じように絶妙な重音奏が多用されています。

バッハの「6つの無伴奏バイオリンソナタ第1番」 第1曲「ソナタ第1番ト短調」(その2)

バッハの6つの無伴奏バイオリンソナタ第1番「ソナタ第1番ト短調」BWV.1001(その2)

バッハの「6つの無伴奏バイオリンソナタ第1番ト短調」は6つから構成される曲集の導入にふさわしく、対位法や洗練された和音の使い方などを織り込んでおり完成度の高い曲であるといえます。

特色としては、「緩—急—緩—急」の第1楽章から第4楽章で構成されてからなり、典型的なソナタの形式をとっているのですが、これが整然とした厳粛性を兼ね備えており、いかにも教会のソナタである面持ちを感じさせます。


さて第1楽章「アダージョト短調4/4拍子」は、プレリュードを思わせる曲調であると言えますが、全曲をとおして重厚な響きが主体とされたモチーフがあります。

第2楽章「フーガ・アレグロト短調2/2拍子」は、バッハの「フーガ ト短調 BWV.1000」として編曲されたものであり、バッハ自信この第2楽章の旋律が、気にいっていたようです。

バッハが鍵盤楽器の優れた演奏家でもありましたが、複数声部のフーガを演奏家にあたかも普通に弾かせようとするパートがあるのですが、ここからはバイオリンにおいてもバッハの演奏技術の高さをうかがい知ることができるのです。

第3楽章「シチリアーナ変ロ長調8/12拍子」は、シチリアーナの舞曲をモチーフとした形式で構成され、ユニークな仕上がりとなっています。

なお、シチリアーナは、その発生起源をシチリアーナ地方とする舞曲で、ルネサンス音楽の末期から初期のバロック音楽にかけて頻繁に多様されたものです。

ゆるやかな8/6拍子か8/12拍子で作曲され、短調を用い躊躇いがちな曲想と付点リズムが含まれるのが特徴です。
器楽曲の楽章として用いられるだけでなく、オペラのアリアにも応用されています。

第4楽章「プレストト短調8/3拍子」は、巧みな上昇音による形式、下降音による形式を頻繁に用いている特徴があります。

バッハの「6つの無伴奏バイオリンソナタ」

バッハの「6つの無伴奏バイオリンソナタ」(BWV.1001~1006)その1

さて平均律クラビィーア曲集に続いて、バッハのケーテン時代の作品として名高い「6つのバイオリンソナタ 第1巻」について紹介します。

バッハの「6つの無伴奏バイオリンソナタ」は別名で、「無伴奏バイオリンのためのソナタとパルティータ」(BWV.1001~1006)と呼ばれています。

これは、3曲ずつのソナタがBWV番号の奇数で、それから3つのパルティータがBWV番号の偶数で合計6曲から構成されているからです。

バイオリン独奏の作品としては、今日でもクラシック界での名作の一つに数えられる楽曲です。

作曲されたのは1720年頃なので、前に何度かその名前が出てきているあのケーテン公レオポルト侯に仕え、ケーテンの宮廷楽長の職にあった頃の作品の1つです。

この頃のバッハは、多くの協奏曲、室内楽曲を創作していましたが、この曲集もその代表作となります。

また第2巻も存在するのですが、これは後に紹介する「無伴奏チェロ組曲」のこととなります。

第1巻については原本の楽譜は、現在既存していませんが、この曲について現在分かってきていることは、当時ケーテンの宮廷楽団に所属していたヨーゼフ=シューピスという優れたバイオリンの名手の為に作曲された作品ではないかと言われていることです。

バッハの生涯「ケーテンの悲しい出来事」

バッハの生涯「ケーテンの悲しい出来事」

しばらくケーテンにちなんだ曲を紹介してきましたので、ここではケーテンでのバッハの身のまわりで起きた出来事について少々触れてみたいと思います。

1720年、レオポルト公と共にカールスバートに旅行中に最愛の妻マーリア=バーバラが急に病にたおれて、急死してしまったのです。

バッハ自身もまだ9歳という幼い頃に母親を亡くしており、バッハの子供達も同じ悲しみを味わったことでしょう。

バッハは、音楽を愛するだけでなく家庭と信教を大切にして生きた人物でもあったことは有名ですが、残された子供達をさぞ不憫に思ったことでしょう。

そしてバッハには更に悲しい出来事が続き、翌年1721年には、兄ヨハン=クリストフが亡くなってしまうのです。

クリストフは、幼い頃すでに父母を無くしていたバッハの父親代わりとなり苦しい生活をしいられながらも、バッハの為に学費を工面して音楽学校を卒業させてあげた人物であった等、今日のバッハを支えた家族の一人でもありました。
その為、悲しみもひときわ大きかったのではないかと思われます。

それでもこの頃、先に紹介してきたブランデンブルグ協奏曲など数々の名曲を創作をするなど、その作曲に掛ける情熱は、まるで最愛の妻、そして兄を失った悲しみを忘れようとするかのような意気込みのようなものがあったのではないかと感じられます。

このようなバッハの気丈さも、きっと子供の頃から貧しくても家族愛を背景にした心の豊かさがバッハの多くの名曲を生むきっかけになったものと考えられます。

バッハの平均律クラヴィーア曲集 第2巻(その8)

バッハの平均律クラヴィーア曲集 第2巻(その8)

今回は、平均律クラビィーア曲集 第2巻(その7)に続いて第2巻のフーガについて、更に掘り下げていきたいと思います。

この曲集におけるフーガの構造を大きく分類すると、主題の提示部、間の楽節、終楽節に分けられます。

主題における提示部は、主題に対して最大で5度程の音程が相違していることで、主題の旋律が引用される応答形式となっています。
これが、古典派の名高い数々の音楽家により、その様式が確立されたソナタ形式の提示部に相当するのです。

また間の楽節では、自由な対位法を聴きとることができ、これがソナタの展開部にも見られる技法でもあり、双方が似かよっていることに気が付きます。

更には、主題を転回させたり、逆行させたりといった具合でさまざまな技法を織り込むことで、この曲集の世界に例えるなら中間色とでも言える技巧性が施されているのです。

終楽章では、再び主題が登場し主旋律音とこれに付随する音が継続し保持されることで、曲の均衡性を保ち終曲を迎えるのです。

以下、残りの8曲となります。

17.BWV886 前奏曲 - 4声のフーガ 変イ長調、
18.BWV887 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ト短調
19.BWV888 前奏曲 - 3声のフーガ  イ長調、
20.BWV889 前奏曲 - 3声のフーガ  イ短調 
21.BWV890 前奏曲 - 3声のフーガ 変ロ長調、 
22.BWV891 前奏曲 - 4声のフーガ 変ロ短調
23.BWV892 前奏曲 - 4声のフーガ  ロ長調、 
24.BWV893 前奏曲 - 3声のフーガ  ロ短調

バッハの「平均律クラヴィーア曲集」 第2巻(その7)

バッハの「平均律クラヴィーア曲集」 第2巻(その7)

平均律クラヴィーア曲集の前奏曲もさることながら、ここからはフーガについて触れてみたいと思います。

フーガにおいては、深く緻密な構想の上に成り立っていると思われる様式が見られます。
前奏曲と同じ様に、バッハの平均律におけるフーガも多様な形式を示しています。

第2巻の24曲のいずれも同じ構造となっていないことには驚愕するばかりで、バッハの旋律を構想する曲想が如何に多種多様に富んでいたことを表すものと思われます。

一般的にフーガは、多声音楽においてその曲を構成する上で優れ機能性を兼ね備えた構造となっているのですが、この第2巻においてはバッハ自身によってより極められた最高のフーガと言える仕上がりとなっているのです。

中半の8曲は、以下のとおりです。
9.BWV878 前奏曲 - 4声のフーガ  ホ長調、
10.BWV879 前奏曲 - 3声のフーガ  ホ短調
11.BWV880 前奏曲 - 3声のフーガ  ヘ長調、
12、BWV881 前奏曲 - 3声のフーガ  ヘ短調
13.BWV882 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ヘ長調、
14.BWV883 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ヘ短調  
15.BWV884 前奏曲 - 3声のフーガ  ト長調、
16.BWV885 前奏曲 - 4声のフーガ  ト短調

バッハの「平均律クラビィーア曲集」 第2巻(その6)

バッハの「平均律クラビィーア曲集」 第2巻(その6)

バッハの「平均律クラヴィーア曲集」 第2巻(その5)に続いて、第2巻の全体像を更に掘り下げて触れてみたいと思います。
第2巻の曲集では、第1巻よりも更に緻密で技巧性に富んだ前奏曲が見られます。
特にニ長調 BWV874、へ短調、BWV881、変ロ長調 BWV890では、古典派のソナタ形式の前進であることを思わせる形式になっているという点に関心が深まります。

これらの前奏曲には、バッハ自身のオリジナリティーによる優れた研ぎ澄まされた即興的な演奏を醸し出す要素が強く感じられる様に思われます。

なお、ここでは、平均律クラビィーア曲集第2巻の全24曲の詳細を1曲ずつ聴いていきたいところですが、第1巻同様に膨大な曲集でもあるので、下記のように全体像までを追うこととします。

勿論次回は、当曲集の一構成を成すフーガについても、その全体像について触れていきます。

前半の8曲は、以下のとおりです。

1.BWV870 前奏曲 - 3声のフーガ  ハ長調、
2.BWV871 前奏曲 - 4声のフーガ  ハ短調
3.BWV872 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ハ長調、 
4.BWV873 前奏曲 - 3声のフーガ 嬰ハ短調
5.BWV874 前奏曲 - 4声のフーガ  ニ長調、
6.BWV875 前奏曲 - 3声のフーガ  ニ短調
7.BWV876 前奏曲 - 4声のフーガ 変ホ長調、
8.BWV877 前奏曲 - 4声のフーガ 嬰ニ短調